林檎に牙を:全5種類
*R指定描写(♂×♀)
初めてカルロと視線を交えたのは、いつの事だったか。
同じような日々の繰り返し、時を記すものも無く、追憶とは特定の難しいもの。
だが、此ればかりははっきり憶えている。

忘れる訳が、無い。





仕事を始めてから3年目の事。
13歳のリンファは、その幼さで歓楽街にも出入りするようになっていた。

其処は数多く娼売人、人魚達が集まる場所。
勿論、彼女には常時付き添いが有ってこそだが。
その『付き添い』であるクロスに対し、軽く挨拶されたのが初対面となるだろうか。

此処では以前にも幾度か見かけた憶えはあった、
それに、何しろ珍しい髪色。
綺麗な顔の造りよりも、其の青い髪がリンファの記憶には強く留まっていた。


女性染みた背格好のカルロは、肩幅やそう云った部分では男性的なもの。
其れが混在して、独特の中性的な空気を纏っている。
加え、童顔気味な為に当時など如何やっても人の眼には10代。
クロスの言葉を借りるとするならば、ほんの「小僧っこ」にしか見えない。

が、娼売に於いてはかなりの遣り手であり、有望との噂も彼女の耳に届いていた。


いつでも笑みを絶やさず、柔らかい物腰のカルロは好印象を受けるであろう。
この場所で会う水人には形式的でも挨拶を欠かさない。
しかし娼売敵にクロスがいい顔する訳も無く。
まぁ、愛想の良い彼と云うのもとても想像などつかないが……、理由はもう一つ。

女性によっては嘆息を零すような微笑でも隠し切れない、冴えた気配。
其れは、剥き出しな者達などよりも、ある意味では余程に冷たく。
リンファもほんの薄くだが感じ取っていた。


そうして幾度か顔だけは合わせていたが、お互い『出会い』と言えるのは結構経ってから。


「其方、は、リンファさんでしたよね?」

擦れ違いのクロスに声を掛けて過ぎ去るのがいつもだが、其の日は違った。
不意に呼ばれ、リンファは思わず立ち止まって瞬きした。
「さん」で呼ばれたのなんて生まれて此の方初めての事、少しくすぐったい。

「あら、教えたかしら?」
「そっちの仲介人さんがそう呼んでたので。それと、綺麗な源氏名でしたからv」
「本名よ。『此れ』一つだけが私の名前。」
「……へぇ?」

其の時、初めて別の色が、少しだけ笑みに混じった。

目が離せなくなったと言うべきだろうか、あの瞬間は。
素顔の片鱗を見たような、そんな気がして。




それから翌日、

ソファーから起き上がり、リンファは陽の眩しさに目を細めた。


まだ夏が終わってそれほど経ってはおらず、こんな日はそうそう珍しくもなかった。
正直なところ眠っていたい。が、今日は市が安い。
日を重ねる毎に風は乾いて涼しくなりつつあるものの、ギラつく陽に舌打ちする。
リンファの肌は陽射しに弱い。

地に落ちる影はその分濃く、酒場に挟まれた長い路地は、静かで涼しげで。

子供が独りで歩くには少々危ないが、歓楽街で空気には慣れてしまっていたのだろう。
それに。午後とは言えども、まだまだ夜には間がある。
此処を抜けた方が近道だったし。
誰にという訳でもなく色々と言い訳して、そっと足を踏み出した。



背後から掴まれた手首、
危急の事態に身体がぎくりと強張る。



酔っ払いか、金品目当てか。
力で敵わないのならば煙に巻いてしまえ。

身構えたリンファは、見受けた正体に眉根を寄せた。


昨日初めて言葉を交わした男。
頭一つ分ほど上、
落ち着き払った瞳で、じっと。

彼も長身と云う訳ではないが、子供からすれば其れほどに差がある。
手首を掴んだまま、その力は少しも緩められず。


「……えっ……と……」


普段は回る舌も固まって、喉から出る声は言葉にはならない。
其れを彼は判っているのだろう、
いつもの顔で微笑んだ男、目に慣れた表情にリンファの硬直が解けた。

不穏な何かを、背筋に感じながらも。



「昨日からですかねぇ……、何だか貴女の事が気になって。」
「其れって口説いてんの?」
「いいえ。」
「……じゃあ何?」


其処から先は言葉にならなかった。

唇を塞がれるように重ねられる。
手首を捕まれた時と同じく、いきなりの事。



此れにも驚きを隠せなかったが、リンファだって何もキスは初めてじゃない。
こんな事で力を奪われるような少女では娼婦など出来ぬ。

口を閉じさせぬ為に突き込まれた、手袋の指先に歯をきつく立てる。
噛み切りそうな程強く。
しかし、其れでもまるで意に介す事はなく、侵入してきた舌が絡む。
流し込まれた唾液は飲み下しきれず、顎を伝って糸を引きながら零れた。



「……此れの『理由』ってとこ、です。」


息を乱して朦朧と見上げてくるリンファに、目の前の男はそう言った。
濡れた手袋にも舌を這わす。
時間も判らぬ程長かった口付けを惜しむように。

指先を包む布を軽く咥えて、そっと手袋が外された。
艶っぽい仕草に如何しようもなく視線を奪われるが、抵抗を放棄する事は出来ない。
意識を現実に繋ぎ止めている手首の痛み。
もう一方の彼の手は、彼女を捕らえている手錠。


現れた長い指が脈打つ首筋を撫でた刹那、襟元を掴んで引き下ろす。
息を呑んだリンファの代わり、裂けたワンピースが悲鳴を上げた。




触れられる事自体には、娼婦としての年月で馴れているつもりだった。
だけどこんなのは知らない。


今まで感じた事のない、昏く強力な圧迫感。


ともすれば押し潰されそうな。



振り絞った自我、噛み付くように睨んだ。
其れだけが、逃げ出せない現状の精一杯の抵抗。
刺すような鋭い眼差しにすらも、男は表情を愉悦に染める。

あの時確かに混じった色。
再びリンファが目にした其れは、侵されそうな程に濃く。



先程まで布に隠されていた素肌に触れた指、
しなやかな、それでも先は硬く。
生身の手と舌先で、小さな身体をねっとり這うように撫でる。

捩じ伏せた強引さとは裏腹に、与えられる刺激は飽くまで丹念なもの。
外気に晒され、少しだけ冷えていた筈の肌が火照り始めた。


「……っは……、ぁ……」


無理に抉じ開ける訳ではなく、深奥から欲情させる愛撫。
其れこそが、彼の狙いなのだろう。


不意に。膨らみかけの乳房に顔を埋めていた男と、目が合ってしまった。
危うく零しそうになった声を呑み込んだ。
唾液に濡れて紅い先端を舐るのを止め、彼もまた上目で此方を。

真っ直ぐな視線は余りに息苦しく、だけど、目を逸らすのも閉じるのも嫌だった。
相手を見据えていなければ、本当に潰れてしまいそうで。



睨み合いに似た其れを終わらせたのは男の方。
やはり余裕を持って笑み、そのまま抱きすくめて視線から解放する。
耳朶に舌を這わせ、ピアスごと噛み付いた。

彼の襟元に顔を押し当てられて、此れでは先程と逆。それで気付いた。
微か、コロンの香り。
清涼感のあるグリーンと男の匂いの中、もがくような呼吸を繰り返す。




狭すぎる路地、押されればすぐに背が壁にぶつかる。
上に降ろされた酒瓶の木箱は、彼女の重みにも僅か軋んだだけ。



無造作にスカートを捲り上げられて露わになる。
布きれ一枚に覆われた脚の付け根。
薄布の端に指を掛けられた瞬間、怯えるように身体が強張った。

いっそ引き裂いてくれれば良いのに。
ずるずると、残酷な緩やかさで腿を滑っていく薄布の感覚。
可笑しくなりそうだ。



膝下まで引かれたところ、抱え上げられた脚をようやく開かれる。
これで、全部。
曝け出された秘所に視線を注ぐ男に、猫のような細い笑みが浮かぶ。


「まだ薄いだろうとは思ってましたけど……、ああ、其の分よく見えますねぇ……」


厭に絡みつく言葉に、リンファは黙ったまま奥歯を噛んだ。
幼い其処は未だ翳りの前触れも見えない。
しかし、目覚め始めていた性感は確かなものとなりつつあった。
既に開いていた花弁に、舌先が差し込まれる。


「あぁ……ッ!ん……、ひあぁっ……」

舐め啜られるたびに、肌を震わせて吐息を零す。
混じり合った蜜と唾液で濡れた其処が熱くて堪らない。

身を捩って気を紛らわそうとしても、意識は掻き乱され続ける。
潜り込んだ指先が立てる水音に、徐々に高くなっていく声に抑えは効かない。
必死に耐えていた中、
突然、膨れ上がっていた芽が啄ばまれる。


程なくして、細い背中が大きく跳ねた。




「はぁ……ッ……、く……」


身体中に残る甘い痺れにリンファは荒く息をついた。
一度だけ目を伏せ、喘ぐように吐き出して、そして再び男を睨む。

其の碧の瞳は潤みきっていたが、白旗を掲げる気など無いと、強く。


「参りました、ねぇ……」

「……何が、」


そんな彼女を前にして、男は溜息に似た独り言を零した。
舌の回らぬ不機嫌な問いを投げる。
いえ、と答える彼には、いつもの表情にも昏いものが混じって。


「やっぱり……、このままじゃ終われないみたいです。」
「……っ!も、もう良いでしょ……っ……?!」
「すみませんねぇ。僕も収まりがつかないもので、」


我ながら其れは考えの甘い言葉だったと、口にしてから思う。
野外であろうと力尽くの相手だ。
この男にとっての狙いは此れからだと云う事くらい、判る筈なのに。
仮にも欲望を満たす事を専門としている自分ならば尚。



押し当てられ、彼の秘所もリンファの前に晒された。
屹立した其処は、今まで娼婦の目に慣れた中では大きめであろう。
それこそ、中性的な印象を受ける彼には似つかわしくなく。

今ほどに動揺した事はなかった。
触れる事も見る事も、飽きる程に慣れているのに。


身体が震える。


此れは本能だ。
恐ろしいと思うのも、渇望しているのも。


暴れる事も出来ぬ腰を抱かれ、突き刺された。





「挿れられるのは慣れてないみたいですね……凄く、きつい……」



言葉の通りだった。

身体を売るのが娼婦とは云えど、挿しつ突かれるだけが仕事の全てではない。
ただ単純に肌に触れたいだけの者も居れば、口での奉仕を要望する者も。
少女娼婦は非合法、尚更にそういった客が多い。

何も可笑しくはない事。
処女であっても、
つい最近までそうであったとしても。



開発途中の最奥、深く深く埋め込まれた其れ。
裂かれるように押し広げられた感覚も、欲情した今は痛みではなく。


咥え込ませてから暫し停まっていた身体、強く引き寄せ揺られる。
始めのうちこそ緩やかに、
少しずつ、木箱を軋ませる程の激しさを増す。


繋がった場所から溢れた液と音。
噎せ返るような匂いを甘やかに撒き散らして、尚に酔う。




きつく廻されたスーツの腕、爪を立てれば、硬く引き締まった手応え。
布の上からとは云えども、思いの外に。


「っ……、リンファさん……」


蕩かされる意識、名前を呼ぶ声に捕らえられる。

身勝手な男の顔を盗み見た。


青い髪を規則的に揺らして、艶に歪んだ其の表情。
逸らせない目を忌々しげに細めた。
瞬き程の一刻でも、綺麗だと思ってしまったなんて、認めたくないから。





ギラつく太陽から隠れた場所。

苦しさに嬌声を上げても、此処からは誰の耳にも届かない。

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2012.02.03