林檎に牙を:全5種類
送りの車が古びた家に着いたのは午前5時半、
藍色をした空には幾つかの星が散っていても、もう朝。
夜の中から帰ってきたクロスとリンファには清浄な空気が冷たく。

当然ながら、空腹。

クロスが欲求を零すとリンファも同意見。
作っておいた物があるから待ってて、と鍋を掻き回しに台所へ。
間もなくして、小さなテーブルには2人分の朝食。
しかし、差し出されたパンと皿を前にした今、
また一段とクロスは口数が減った。

湯気を立てているのは野菜の煮物なのだが、やけに赤い。
東の国の料理の本で見つけて作ってみた一品だと言う。
匂いも決して悪く無いものの、何処か複雑で未知の物であって。
訝しみながらも、一口。

「…………面白れェ味してンな。」
「不味くはないでしょ?」
「あァ、国によって人の味覚って違うモンだな……」
「んー……此処じゃ手に入らない材料も多かったから、色々と代用してみたの。」

色々と、との言葉から察するに一つや二つじゃないだろう。
其の言葉は呑み込まれた、
空腹とは最高の調味料なのである。



*「穏やかな日々に10のお題」より。
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2012.01.28