林檎に牙を:全5種類
ブザーを合図に幕が開けば魔法の始まり。
暗闇から浮かび上がる舞台の上は、切り取られた別世界。
たとえ作り物だとしてもそこに憧れた。


演劇部を選んだ切っ掛けは何だったか。
部員達に訊けば皆それぞれ違う回答、今でこそ部長なんて務めている白部も。
彼にとってのスターはただ一人。
舞台に立っていた宍戸帝一の姿が、今も焼き付いているから。

親が芝居好きなので、劇場なら幼い頃から連れられたものである。
勿論、子供には退屈なものも多いので毎回が賭け。
やれやれと思いつつ、白部自身もそれなりに楽しんではいた。

なので、観賞自体はすっかり慣れ親しんでいたのだ。
転機は明確にあの時、あの舞台。

童話をモチーフにした話で、宍戸帝一が演じたのは悪役のライオン。
名の通り彼はまさに帝王だった。
スポットライトを浴びた金色の髪に、威風堂々とした姿。
あんなにも麗しいと感じた男性は初めてで。



「だからオレからしたら、武田の立場って羨ましくもあるけどさ。」
「そりゃあ役者としての話だろ、父親としてはどうだか。」

そう白部が溜息を吐くと、大護は緩く横に首を振る。
帝王の息子は実に冷めた表情と返事。


学校から徒歩数分、ファーストフード店での会話である。

大護とは一緒に来た訳でも待ち合わせしていた訳でもない。
小腹が空いた放課後、バスを一本遅らせた白部はふらりと立ち寄っただけ。
夕暮れが近付きつつある店内は賑やか。
見渡せば他に空席も幾つかあったが、何となくの相席になった。

食べ盛りの上に二人ともよく食べる方。
セットメニューを頼んでおいて、帰宅後は夕食も平らげるのだ。
横から大護を見ると、口を開けた時に牙が目立つ。

狼を思わせる白部と、例のライオンによく似た大護。
並んでハンバーガーを齧っているとますます肉食獣じみて可笑しい。


白部が小学校の頃に転校して来てから約10年、大護とは何度か同じクラスになった。
顔を合わせれば軽いお喋りくらいはする仲である。
一貫校は顔馴染みが多い、付いたり離れたりと波のような人間関係。

父親の話題を出すと不機嫌になるのは知っていた。
だからずっと避けるようにしていたのに。

今日ばかりは何故だか、舌から言葉が滑り落ちて始まった。
大護が付き合ってくれているのも意外だが。
苦い顔をしつつも逃げず、だらだらと会話は続いている。

それに憧れは強くても、白部も宍戸帝一を目にしたのは舞台上や画面でのみ。
同じ地元に住んでいるとは云え、そうそうプライベートで逢えるものか。
ばったり出くわすほど街は狭くない。
大護に頼み込むなんて恐れ多い事も出来やせず。


イメージなんて人それぞれ。
白部にとって宍戸帝一はライオンだが、大護にはただの父親。

そして他のファンからしても、どのキャラクターを思い浮かべるかは違う。
何しろ仕事を選ばない役者なので出演作は非常に多いのだ。
若くて細身だった頃の恋愛ドラマでは気怠げに微笑む美しい青年。
また特撮では子供を泣かせの冷酷非道な中ボス。
更にホラー映画では、気性が激しくエキセントリックなゾンビの王。

それでも全体を通してみればやはり悪役が多い。
白部も勿論影響を強く受けたもので、舞台では憎まれ役を買って出てきた。
赤頭巾ちゃんの狼だとか、ピーターパンのフック船長だとか。

悪役は演技力が高くなければ務まらないと云われる。
白部の教科書は宍戸帝一、どれだけ作品を繰り返し観て勉強したやら。


「俺は親父の番組ほとんど観た事ないからピンと来ないけどな。」
「いや、応援くらいはしてやれよ……」
「この俺とほぼ同じ顔してるってだけでむず痒いわ。」
「そこは別として、面白い作品も多いんだぜ?」

なんて白部は言いつつも、あの恋愛ドラマは特に見難いだろうと思い直す。
どれだけ名作でも父親のラブシーンと云うだけで理由は充分だ。

考えてみれば、今の自分達とそう変わらない年でデビューしていたのだ。
尤も、バイクを乗り回して野性味が強い大護とは全く重ならない。
顔立ちは兎も角として、確かに別人。
耽美な雰囲気のキャラクターと現実の高校生を比べるのも不毛な話だろう。


ハンバーガーで最後の一口はソースまみれの大きめ。
少し無理に詰め込んだ白部が頬を膨らませて咀嚼している隙の事。
ふと横から大護の手が伸びて、袋のポテトを一本盗んでいった。

悪戯小僧の表情で此処に居るのは、同級生。
だからこそ友人になれた。


「そうだ……、ホラー映画の方なら親父のサイン付きDVDやるよ。」
「んんん!」
「何だよ、首横に振って。遠慮する事ないじゃあないか。」
「うぐ……」

白部の怖がりを知っていて、この仕打ちである。
口に物が一杯で喋れない事も。
最初から言葉で勝てないのは分かっているのだが。
どうしたものかと思いつつ、そうして甘んじてきたので今更の話か。

呑み込んだところで白部が返すのは反論でなく、ただの苦笑。
こんな意地悪も何処かのドラマで見たような気がして。



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2017.08.29 
林檎に牙を:全5種類
顔を売り物にする人生と云うのはプライバシーが犠牲になる。
当人なら覚悟の上だ、自己責任。
しかし、血縁者の身からすれば堪ったものではなかった。


真面目な話、武田大護は自分の顔にコンプレックスを抱えていた。
思春期にありがちな悩みとかではなくて。

不細工と云う訳でもない、むしろ逆である。
シャープな眉に猫科の獣に似た吊り目、大きめの口許には目立つ牙。
華のある顔立ちに身長も高く、集団の中でも目を引く存在。

それは彼の父親によく似ているのだ。
「宍戸帝一」の名でカメラの前に立つ、俳優である父親に。

若い頃から美形が勿体ないほど仕事を選ばず、多様な活動で知られる。
必要とあれば全裸すら晒し、またある時は派手なメイクに奇抜な衣装までも。
仕事熱心と云うか、サービス精神と云うか。
ベテランとして売れている今現在でも変わらないので大したものである。

お陰で生活は豊かでも、顔が売れるほど複雑な心境なのは血を分けた息子だ。
弟も居るが、そうした言葉を掛けられるのは自分だけ。
あちらは母親似なので回避出来ているのが何となく狡いとすら思ってしまう。

どうやっても父親の影がついて回るのだ。
何処へ行っても「似ている」と言われるのが、大護にとって一番忌々しい。


「ダイ、お前は父親ほどガチムチじゃないだろ。似てるとかおこがましいな。」
「ちびもやしのユウちゃんに言われたくねぇわ。」
「ユウちゃんもダイちゃんもさ、いびり合うよりお菓子でも食べなって。」

作家「荒井新月」の孫達は、そうやって愚痴をさらりと受け流す。

幼馴染の公晴と、家へ遊びに行くと鉢合わせる確率が高かった嵐山。
そうして何やかんやで細く長く三人で過ごす仲である。
二人とも小柄で色素が薄く、髪は煮詰めた砂糖を連想させる褐色。
一見すると兄弟のようだが従兄同士。

それらの点も間違いなく祖父譲りだ、昔馴染みなので大護も逢った事がある。
ふんわりした毛並みに丸々した目の公晴は特に似ていた。
老齢の荒井氏も、きっと昔々はさぞ可愛らしい少年だったのだろう。

俳優と作家では立場が少し違うけれど。
そもそも、あちらは物書きなのでメディアに顔を晒さない主義。
仕事の時以外で関心を持たれるのは煩わしいそうだ。
街を歩いても騒がれない辺り、大護には羨ましい限りである。


とは云え、学校生活の方は意外と平和なのだが。

彼らだけに限らず、早生学園は著名人の血縁者がひっそりと在籍している。
幼稚園から一貫している生徒も多く、顔馴染みばかりで居心地が良い。
下手に騒ぎ立てる輩はむしろ「見苦しい」と一蹴される。
からかわれたとしても必要最低限、環境に恵まれたとは自分でも思う。

そうして狭い世界で暮らしている分には良いが、大護には窮屈でもある。
行動力がある性分なので小さく纏まってはいられない。
バイクで遠出もしたいし、いっそ海外にも行ってみたい気持ちも。


「そりゃ僕も賛成、もう帰って来なくて良いよ。」
「俺だってお前の顔見なくて済むけど、腹立つなオイ。」
「そもそも何しに行きたいんだよ、田舎者が都会とかに憧れてるだけ?」
「待て待て、田舎者はブーメランだろ。俺ら地元育ちなんだから。」

甘い顔立ちの嵐山だが、切れ長気味の吊り目で口が悪い。
手厳しい軽口なんてお茶請け代わり。
ペットボトルのジュースを煽りながら、いつもの打ち合いは続く。
空気は決して張り詰めず、だらだらと緩んだままで。

公晴で繋がりが生まれなければ、きっと嵐山とは口を利く事も無かっただろう。
友人だなんて称するのは互いにお断り。
それでも、知人と呼ぶよりはもう少し近いと感じる。

そして二人と一人に分かれても、すぐ側の公晴は呑気なものだ。
止めもせずに何か食べながら傍観者。


「そーいやダイちゃんお父さんさ、仕事あるなら都会に住んだ方が良くない?」
「田舎っちゃ田舎でも関東圏だから通えるし、芸能人ってそんなもんらしい。」

そう云う事で父親は仕事で留守も多いが、家族揃って紅玉街に住んでいる。
反発はしているものの嫌っている訳ではない。
幼い頃なんて、兄弟二人とも愛情不足を感じるどころか過保護だった。
むしろ放任でちょうど良いと思っていたくらい。

父親も此処で育ったので、学生だった頃は地元劇団に居た事もある。
「宍戸帝一が所属していた」と云う宣伝によりそこそこ有名。
芸能界入りした後輩も数人らしいが、大護には関係のない話だった。


にも関わらず、芝居の勧誘をされるのが鬱陶しい。
二番目に忌々しい事。

無責任に二世タレントを勧められる冗談なら昔から浴びせられ続けてきた。
全く笑えない話である。
父親が俳優でも、息子は演技に興味があるとは限らないだろうに。
大護の好きな物はバイクと爬虫類、遊び程度でギターだ。


早生学園にも演劇部はあるが見ないふりで通り過ぎてきた。
人気の高い部活なので、舞台に立ちたい生徒なら幾らでも居る事だし。

公晴と自分が違うと感じるのも、この辺り。
文章を書くのが得意なのも祖父からの遺伝か、脚本担当で演劇部。
プレッシャーなどは感じないのかとも思うが杞憂か。
第一、「似ている」と言われても彼の場合は嫌な気分にならないのだし。

「その血の運命ってやつじゃないかな。」
「ジョジョかよ。」

苦笑いを返して、そこから先の言葉は呑み込んだ。
遺伝の話なんてもう何度も繰り返してきた。
とっくに飽きてしまった事をやる必要なんて無いだろう。

一方で誘われた形で嵐山も演劇部だが、脚本には関わらず衣装係。
好きな事の為だ、誰に言われるまでもなく。

道はそれぞれ、それで良い。


「GWは白雪姫やるから観に来てよ、ユウちゃん舞台デビューだよ。」
「あぁ、小人役か。」
「毒林檎でも食べてろ。」

打ち合った言葉は掠り傷一つ付かずに流される。
そこから生まれる平穏。



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2017.08.20 
林檎に牙を:全5種類
高校生になって最初の夏休みは非常に健全なものだった。
皆が遊び回って浮かれている中で、少なくとも遼二にとっては。

朝から太陽を浴びながら駅に向かい、制服に着替えての労働。
何しろ春から始めたバイトにも慣れ始めたのだ。
長時間のシフトも任されるようになり、楽しくなってきた頃。

学校の後では疲れるものだが、労働だけで一日が終わるのは気楽だった。
ガラス戸の向こう側は目に痛いほどの陽射し。
駅ビル全体はクーラーで涼しく、暑い時間帯を何食わぬ顔のまま過ごせた。
汗だくで冷たい飲み物を求めて来る客には思わず笑みも優しくなる。


今日も混雑する時間は無事に終わり、気温も緩やかに下り坂。
交代の頃を意識すると余計な力も抜ける。

それにしても、8月になって客層の年齢幅が更に広がってきたと感じる。
カフェと云うと若者向けのイメージになりがちだろう。
しかし、モノクロで落ち着いた「Miss.Mary」は人を選ばない。
駅ビルなので、ちょっとした遠出の遊びや旅行などの休憩に使われていた。

勿論、通常の駅利用者にも。
一期一会だけでなく見知った顔が混じっているもので。

無造作な癖っ毛に人形じみて整った面差し、長身の少年が一人。


「あー……いらっしゃいませ。」
「あからさまに目逸らしたね、早未ってば。」

カウンターを隔てて店員と客としての再会。
遼二の不在時は知らないが、神尾が店に来たのは初めてではないだろうか。

“健全”なんて言い表したのは、神尾と顔を合わせない事も意味していた。
何しろ遼二にとって疚しさの象徴。
ただ触れ合うだけの関係であって恋人ですらない。
休日に出掛けたりした事はあっても、飽くまで肌を知る前の話である。

不意に、あの狭い音楽準備室の匂いを思い出した。
こんなにも明るく生気の溢れた場所には似つかわしくない埃っぽさ。

「おれが来ても良いって言ったじゃない。」
「……社交辞令ですよ。」

あれはいつの会話だったか。
確か、別の遊び相手と来ても良いとは言った気がする。
その時は自分と他人のふりをしてくれとも。


この店はカウンターで注文を取ってから席に着くシステム。
いつまでも突っ立っている訳にも行かない。
無言のまま急かされて、神尾もようやくケーキと飲み物を決めた。
オーダーを厨房に伝えた遼二が溜息を吐いたのを気付いたか、どうだか。

「Miss.Mary」はシフォンケーキ専門店。
軽い口当たりで甘さ控えめなので、気楽に立ち寄れるのが売り。

夏の限定メニューはミントとシトラスの組み合わせ。
コーヒーの注がれたカップを添えて、恭しくトレイを渡した。
会計も済ませたが、接客はこれにて終了とはいかず。

注文を伺った時、遼二が溜息を吐いた本当の理由は。


「コーヒーちょうだい。」
「はいはい……」

気前が良い事にホットコーヒーは何杯でもおかわり自由。
ポットを持つ店員は巡回中に呼ばれたら、すぐさま駆けつけねばならない。

軽くなったカップに、湯気を立てながら流線型を描く黒褐色。
お坊ちゃんの神尾が相手だと執事か何かになった気分。
束の間のごっこ遊びで、思わず笑いそうになる。

涼しい店内で熱々のコーヒー自体が贅沢。
優雅な午後、そこにケーキまで付くのだから言う事はないだろう。


「あのさ早未、バイト終わるのって何時?」

質問されたのはそんな時だった。

のんびりお茶する客ばかりで空席も出来るようになってきた頃。
軽い雑談も接客のうちとみなされるので、神尾に足止めされていても問題無し。

「後でアイスでも食べないかな、と。」
「別に良いですけど、僕まだ終わらないから待ちますよ?」
「別に良いよ、おれも。」
「ああ、そうですか……まぁ、コーヒーでも飲んでて下さい。」

曖昧に濁したり、断ったりも手。
実際、神尾の来訪自体をあまり歓迎していなかったのだ。
誘いを受けてしまったのは諦念と云うか。


此方の本心を分かっているのかは知らないが、神尾は一つ頷いた。
そうしてすぐさま鞄を漁り、藍色の背表紙を取り出す。
例の手帳に遼二との約束を加える為。
そんな僅かな時間で忘れる訳でもあるまいに、思わず訝る目になってしまう。

目の前で開かれても、遼二は中身をなるべく見ないようにしていた。
遊び相手との予定やルールが書き込まれているのだ。
魔女の鍋を覗き込むようなもので、そんな恐ろしい事は出来るものか。

尤も、鍋の具材に数えられる遼二が言えた立場でないが。
神尾が誰と肌を重ねていたって知った事でもなく。

「書き留める必要なんてあります?」
「あるよ。何て言うかな、おれは人と約束するのが好きだから。」

その返答も思わぬものだった。

「約束を交わした時点でその人が特別になって、秘密みたいになる感覚が良い。」

こうやって神尾はよく思いがけない事を口にする。
「分かる」とも「何だそれは」とも言い返せなくなってしまう。
そこまで自由に振舞えない遼二からすれば、やはり別の生き物なのだと。


「約束って守らなきゃ意味が無いですけど。」
「そうだねぇ、だから早未も忘れずに来てよ。」

皮肉のつもりが、打ち返されて釘を刺された。
待たせる身になるのは遼二なのだから仕方ないのだけれども。
好きで待つくせに偉そうな。

神尾の席を離れたら、また仕事の顔に戻って給仕に精を出す。
この制服を脱ぎ捨てるまでは。
早いところ片付けてタイムカードを切らねば。
植え付けられてしまった感情も、アイスと一緒に溶けますように。



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2017.08.06 
林檎に牙を:全5種類


ういちろさんから頂きました、梅丸です。
前回いただいた「血は蜜より甘く」の対にもなってます。

今回は赤と白カラーリングで2色のみだからクールな仕上がりで!
高校生編からほのぼの話ばかり続いてますが、夜は相変わらず激しい二人です。
引っ掻くし噛むし、キスマークもいっぱい。
そんなに露出してる訳じゃなくても、傷って色っぽいです!(*≡∀≡)+.:゜ウヘヘ
梅丸が他人に肌見せないようにしてるのと、嵐山君は海とかプール嫌いだから
行きたくないので余計に…だそうで。
夏でもお出掛けよりお家デートがメインになりそうです。

ういちろさんありがとうございました!

2017.07.25 
林檎に牙を:全5種類
浅い夢は蛙の声で消え去った。
寝静まった田舎道には夏の風物詩がよく響き渡る。
窓には視線もくれず、シーツに寝そべったまま公晴はただ聴いていた。

部屋は目を閉じても開けても真っ暗闇。
時計も読めないが、もう日付は変わっている頃だろう。

この頃は湿気で息苦しくて、眠りが浅くなりやすい。
普段なら寝つきが良い方の公晴もゆっくりと起き上がった。
何か冷たい物が欲しいところ。
面倒に思いつつも、忍び足で目指すは台所。


カーテンの閉め切った部屋と違い、廊下の窓からは眩しい月。
暗さに慣れた目を凝らし、手摺を握りながら一段ずつ階段を降りる。

丑三つ時の庄子家は灯りが残らず消えて、多少の物音では誰も起きやしない。
一家の稼ぎ頭、祖父が規則正しい生活を送る主義の為。
「寝る間を惜しんでも良い作品は書けない」と荒井新月は語る。
物書きは徹夜とばかり世間で思われがちなので、驚かれたものだった。


故に、まさか台所に先客が居たなんて心臓が止まりかけた。
流し台の蛍光灯で浮かび上がった人影一つ。


「……え、来てたの?何してんの、叔父さん。」

ホラー映画の1シーンじゃあるまいし、脅かさないでほしい。
散々見慣れた筈でも、自分が体験するとなるとまた違う。
ああ云うものはエンターテイメントだからこそ楽しいのである。
決して自分が怪物に襲われたい願望がある訳ではない。

影の正体とは、明かされてみれば拍子抜け。

端正な細面に切れ長の目はクールビューティーと云った風貌である。
背丈はそれほど高くないにしても締まった身体つき。
母と年が離れた30代だが、黒髪も肌も艶やかで実際より若々しく見えた。

この色男が祖父の息子だと云うのだから不思議である。
茶系の癖っ毛にどんぐり目なだけ、公晴の方がよほど似ているのに。

隣街で一人暮らしをしている叔父で、名は肇。
公晴が生まれた頃はまだ高校生だったので一緒に住んでいた時期もある。
自立心が高く、海外へも行っていたが数年前に帰って来た。
今は専門学校でフランス語の講師をしていた筈。


「ちょ、無言のまんまだと怖いよ、叔父さんてば……」
「素敵なお兄様と呼んでくれないか。」

それは、愛読しているホラー漫画の有名な台詞だった。
キャラクターを真似た肇は口端だけで笑う。

肇が独り立ちで実家を出る際、本棚一杯に残したホラー漫画の数々。
大御所の代表作から隠れた名作まで。
中にはやたらと古めかしい物もあり、不気味さが増していた。

絵本と一緒にそんな漫画ばかり捲って育ったのだ。
公晴が怪談好きなのは叔父の仕業。


それより、相変わらず質問には答えてくれない。
見れば分かるとでも言いたげ。
流し台の前に立つ肇は桃を持っている。
ちょうど剥くところに邪魔したらしい、そう云えば好物だったか。

丸々した薄紅色を見ていたら、公晴も喉が渇いていたのを思い出した。
身体に残る水分が唾になって溢れてくる感覚。

「桃良いなー、オレも食べたい。」
「冷蔵庫にもう一つある。」

欲しければもう一つ剥けと突き放す返事。
そう、分けてくれる訳が無いのだ、よく知っている。
公晴の分があるだけまだ良いと思わなければ。


桃はよく熟れていて、掌にひんやりとした重み。
生え揃った産毛の感触は丸まって眠る生き物を思わせる。

そう云えば生の桃なんてあまり触れる機会が無かったかもしれない。
柔らかすぎるので下手な力では崩れそうだ。
いつも食卓に上る時は既に切り分けられた状態、もしくは缶詰。
ただでさえ旬が短いので口にするのもいつ以来か。

こうなると、肇の真似をするより他に手は無し。
長い指が桃を弄ぶ様を黙って見る。

爪を立てた程度では破れないのでナイフの出番。
縦の溝に沿って浅く刃を滑らせて、ぐるりと一周する。
切り込みに溢れる甘い汁。
そこから皮を捲れば、真っ白な身が剥き出しになった。


「ベッドで服を脱がせるみたいだろう?」

肇が零したのは睦言にも似た低音。
思いがけない台詞に、公晴の持つナイフが危うく指に掠めてしまった。

何を言い出すのだろう、この人は。
「セクハラ」と口答えするのも蒸し返すようで躊躇われる。
同じ親戚でも酒飲みの中年男性なら笑い飛ばして終わりだったろう。
小奇麗な肇が相手だと、一時の冗談でも妙に色気を持つ。


甘い香りを漂わせながら滴り落ちる桃の蜜。
夜に沈んだ家の中、雫の音すら聴こえそうな錯覚をもたらした。

そうして飢えた吐息一つ、肇が桃に歯を立て始めた。
貪られる蜜の音は幻でなく今度は確かに響く。
あんな事を言われた後だ。
まるで情交の一幕を見ているようで、何だか落ち着かない。

その所為で出遅れてしまったが、公晴も桃に口づけた。
瑞々しい甘さが唇を濡らして喉が鳴る。
たちまち同じように溺れてしまったのは言うまでも無し。

暑さで渇いていた身体に沁み込む蜜。
獰猛なまでに柔らかな果肉を齧り、舌を這わせて味わう。
口も指もべたつきながら、それでも止まらない。
それこそ種一つになるまで夢中になった。




以来、桃を見るたび公晴はあの夜の出来事を思い出す。
舌先に蘇る蜜で唾液が湧いてくる。

今となっては夢だったのではないかと曖昧だけれど。

翌朝には肇の姿など無く、家族の誰もが来訪を知らなかったのだ。
そもそもあんな時間に居た事自体が奇妙。
実家なのだから好き勝手に振舞っていても問題ない、確かに。
それにしたって、忍び込んで桃を盗み食いするなど意味が分からない。


「あのさ、叔父さん……いや、やっぱ何でもないや。」
「何だ、言いたい事ははっきりしろ。」

本人に問い質せば真実は明らかになる。
後日顔を合わせた時に言い掛けたが、やはり途中で止めた。
訝る肇には笑って誤魔化す事にして。

不思議な事は解明しないままの方が素敵じゃないだろうか。
それは公晴が怪談を愛するのと同じ理由で。



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2017.07.20 
林檎に牙を:全5種類
「梅さーん、今帰り?」

鞄を下げて昇降口前、肩越しの声に梅丸は振り返る。
昔から友人達にはそう呼ばれてきたので、すっかり耳に馴染んでしまった。
高校に入ってから人数はまたもや増えた事だし。

声の正体は、そのうちの一人。

カラメル系の髪は嵐山に似ていて見慣れた色合い。
しかしふわりと癖がついて、髪だけでなく顔立ちなども全体的に柔らかい。
庄子公晴、嵐山の従兄で演劇部の先輩である。
広い学校なので部活の無い日に顔を合わせるのは珍しい。

「ん、まぁ……ユウ待ってたとこ。」
「時間大丈夫?バス通学だと時計見ながらの行動になるよねぇ。」
「そうだんべねぇ、だから今日は寄り道してから最後のバスに乗るんさ。」
「そっか、放課後デート楽しんできてね。」

そして梅丸と嵐山の関係も知っている。
「デート」なんてあっさりと口にする公晴は何でもない顔。

人柄も柔らかいのは外見通り。
下手に構うと棘を刺す嵐山とは対照的だ。
だからこそ、気難しい彼が心を許す数少ない相手でもある。


「そうだ、梅さん良かったらコレ食べない?」

おやつを持ち歩いている公晴は自分用だけでなく、人にもよく分け与える。
ちょうど小腹も減っていたので梅丸も歓迎。
そうして取り出された今日のお菓子はチョコサンドクッキー。
クマの顔を象ったクッキーにクリームが挟んである。

袋が振られて、気前よく何枚か梅丸の掌にクマが落ちる。
半分は嵐山に残してあげようかと思っていると。


「あ、ユウちゃんが来る前に食べ切っちゃってね。」

見透かすように付け加えられて、少なからず驚いた。
意地悪で言ったのではないだろうけれど、どう云う事なのやら。

「うーん……ユウちゃん、顔の付いてる食べ物苦手なんだよね。」
「何なんそれ?」

梅丸が首を傾げると、公晴が少し抑えた声で昔話を始めた。
それはまだ嵐山も公晴も幼児だった頃。

庄子家に遊びに来ていた時、おやつでひよこ饅頭が振舞われた。
可愛い物が好きな嵐山は大変喜んだ。
愛しげに眺めたり撫でたり、とうとう「飼う」とまで。

しかし残念ながら所詮は食べ物。
その時、食い意地の張った祖父が居合わせたのも悲劇だった。
「要らないのなら」と奪われて、頭から無残に食い千切られた悲劇。
嵐山が号泣した事は言うまでも無し。

「進撃の巨人でエレンが母親食べられた時と同じ顔してたよ。」

飽くまでも深刻そうな口調。
笑わせるつもりで言ったのではないらしい、どうやら。


祖父を恨むまではいかないにしても、幼少期のトラウマとは根深い。
それ以来、目鼻のある食べ物は明らかに避けているらしい。
「食べるのが勿体ない」と「顔が崩れると怖い」が理由。
ずっと親しい付き合いのある公晴が言うだけに、間違いないだろう。

そう云えば、貰ったクマを見ていると分かる気もする。
表面がひび割れて渋い顔が中に一枚。
なるほど、確かに直視していると何となく不気味だ。

言いつけ通り、クマは早めのペースで梅丸の口に消えていく。
噛み砕けばただのクッキー、そんなものだ。

「饅頭怖いって落語みてぇだんべな、意味違うけど。」
「いやー、ユウちゃんが怖いのは他にも……」

そこまで言い掛けて、公晴は口を噤んだ。
プライバシーにも関わる事なので喋り過ぎたと自重して。
何しろ自尊心の高い嵐山だ、知られたら不機嫌になると決まっている。

が、中途半端に切られては梅丸が困る。
恋人の事なら何でも知りたい、そう云うものだ。


「本人に聞くと良いよ、梅さんなら教えてくれるかもしれないし。」

ホラーを愛する公晴の方こそ果たして怖い物なんてあるんだか。
興味があるような無いような、何とも言えない気分。

そうして手を振ると、公晴は靴を履き替えて去って行った。
嵐山家の近所だが自転車なので通学時間が掛かるのだ。
よく食べる分だけ、それなりの距離があっても平気で毎日往復している。
そこも体力の無い嵐山と差が目立つ。

それにしても、難題を提示してくれたものだ。
弱みを見せたくない嵐山が自分から話してくれるとは思えないのに。




「ユウって怖い物とかあるん?」
「は?何だよ急に。」

全くもって予想通りの反応。
睨まれると却って笑いそうになってしまって、ますます訝られる。


合流してから学校の外、並んで歩きながらの会話だった。
街中に門を構えているので周辺を散策するだけで寄り道する店は事欠かない。
実際、お茶している早生学園生の姿は窓ガラス越しに何組も。
敷地は少し離れていても、幼稚園から大学まであるので年齢層が幅広い。

「いや……公先輩に会った時、そんな話になったんさ。」
「あぁ、そう。けどさ、訊ねる前に自分から言うのが筋じゃないの?」
「ん、俺?強いて言うんなら、でけぇカエルはあんまし触りたくないんねぇ。」
「灯也、カエル怖いとか女子かよ……」
「アマガエルとか小さいんは平気でも、サイズオーバーは別物だんべ。」
「まぁ、質感が気持ち悪いのは分からないでもないけど。」

予定を決めず、取り止めのない話を続けながらの足取り。
このまま時間が過ぎて行くのは勿体ない。
最後のバスと決めていても、刻一刻と迫ってきているのだ。


梅丸としては、何でも良いから食べたいのが正直なところ。
クッキーを摘まんだら空腹を呼び覚ましてしまった。

そんな時に視線を引き付けたのが、赤い看板に黄色のマーク。

「マックとかどうかねぇ、腹減ったし。」
「嫌だよ、何でよりによって……!」

軽い気持ちの提案だったのに、対する嵐山の声は思いのほか鋭い。
普段涼しい態度を崩さない梅丸が驚いてしまったほど。

確かに、お坊ちゃんなのでファーストフードは普段から口にしないだろう。
そこを考慮して反対するのは頷けるが、この返答は何かおかしい。
よっぽどハンバーガーが嫌いなのだろうか。

「よりによって、なんて何かあるん?全然分からん。」
「灯也……、本当は公君から聞いたんじゃないのか?」
「ますます分からん。」
「だから、僕が……ピエロ怖いって。」

やっと口籠りながらそう白状した。
恋人の欲目、観念した表情が拗ねた子供のようで可愛い。


溜息の後、嵐山は渋々と理由を話し始める。
嵐山家の近所には大型スーパーがあるのだが、昔はマクドナルドも入っていた。
その店頭には等身大のドナルド人形も。
小さな子供の身長からすると、それはそれは巨大。

見上げるたびに背筋が震えて、なるべく目を閉じて通り過ぎていたらしい。
ハンバーガーまで苦手になってしまったのは大袈裟かもしれないが。

ただでさえピエロはホラー映画でもよく怪物として登場する。
「IT」のペニー・ワイズなんて代表的。
公晴はB級の「キラークラウン」の方が好きらしいが。
面白いからと勧められた時、嵐山は丁重に断りつつ冷や汗ものだった。


此方を窺う嵐山は目に疑惑の色。
心配しなくとも、黙って聞く梅丸は笑ったりしない。
微笑ましいとは思っていても。

「まぁ、怖い物一つ二つあった方が可愛げあるべ。」
「可愛いとか、嬉しくないし。」

憎まれ口を叩いたところで、嵐山の表情にも何処か安堵が混じる。
重い物は吐き出し終えれば気楽。
やっといつもの調子に戻った、それで良いのだ。


まだこんなに明るい往来では繋がれないままの手。
それでも二人で出来る事なら沢山ある。
時間一杯、今日も共に過ごそう。

怖い物が人知れず蠢き出す、夕闇が迫る前に。



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2017.07.14 
林檎に牙を:全5種類



「・・・っ」

嵐山の鋭い牙が梅丸の肩に食い込む。
普段感情が顔に出ない梅丸も、痛みに顔を顰めた。

「いい顔」

俺の血を舐めながら、愉しそうに嗤う。
どっちがいい顔してるんだか。

薄暗い部屋の中、色白の嵐山の肌は更に白く浮かび上がり、
血とそれを舐めとる舌は赤く鮮やか。
妖艶な気を纏いながら俺を見つめる姿は、まるで吸血鬼のよう。

別にお前が何者でも構わない。
欲するままに俺を喰らいつくせばそれでいい。
ただ俺は、お前の欲望をすべて受け止めたいだけ。



ういちろさんから頂きました、嵐山君です。
嵐山君よく梅丸に噛み付くから吸血鬼みたいだよね、と前からういちろさんとお話してて
このたびイラストに起こしてもらいました(`・ω・´)

最近は二人ともすっかり穏やかになってるけど、ベッドではSMっぽい事やってるので
ダークな雰囲気にもなります。特に嵐山君は耽美似合う!
背景が濃いので髪のサラサラ感が割り増しになってて、表情が本当に色っぽい…
華奢なんだけども攻めっぽさがしっかりしてて格好良いです(*≡∀≡)+.:゜ウヘヘ

ういちろさんありがとうございました!

2017.06.29 
林檎に牙を:全5種類
読書とは孤独の時間である。
ページを開いている間は本の世界に浸り、一人きり。
内容が引き込まれる物ならば尚更。
視線で物語を追って、周囲の事など何も目に入らなくなってしまう。

だからこそ、それが面白くない者も居る。


「灯也、帰るぞ。」

現実へ引き戻されるのは不意の事。
少年誌を開いていたら嵐山に二の腕を抓られた。
暑さに負けて皆ほとんど半袖の季節だ、素肌なのでかなり痛い。

名残惜しくも時間切れ、本は棚へ。
此れ以上嵐山が機嫌を損ねないうちに梅丸は従った。


二人にとって馴染みのコンビニでのやり取りだった。
クーラーの効いた店内を後にすると、まだ強い陽射しが全身に刺さる。
慌てて包装紙を剥がしたアイスを咥えてクールダウン。
シロクマは練乳の甘さが舌に優しい。

かと思えば、横から嵐山に奪われて一口食べられた。
あちらも林檎のシャーベットがあるのに。
行儀が悪いのではなく、ただ先程の事で怒っているだけのお仕置きか。


「待たせて悪かったんね。」
「それより立ち読みとかやめろよ、みっともない。」

そこを突かれてしまうと梅丸も痛い。
買わずに済ませてしまうのは、店員にも雑誌にも申し訳ないとは思う。
実のところ前はきちんと購読していたのだ。
しかし数年も経てば連載陣も変わり、もう好きな作品は一つ二つだけ。

子供は漫画を読んで育つもの。
嵐山もそんな経験は無いかと訊ねてみれば。

「マナー悪いから立ち読みするくらいなら買えって教育方針だったよ、うちは。」
「あぁ、言いそうだんべねぇ。」
「そもそも少年誌は買わないよ。下ネタと水着グラビアでうんざりするし。」
「ユウって育ちが良いんね、やっぱ。」

アイスを奪われた後で言うのも何だが、別に嫌味ではない。
家や言動で分かる通り、嵐山はお坊ちゃん育ちだ。
加えて感性が乙女なのであまり下品な物は自分から避ける。
グラビアに関しては、同性愛者だからと云うよりも他人に興味が無いのが理由。


かと云って、嵐山も漫画を全く知らない訳ではない。
部屋には少年漫画のコミックが人並みに。
いずれも王道のヒーロー物ばかりだったか、趣味は何となく分かる。

家族共有の書斎にも大御所の作品集が揃っていたので、親も読むのだろう。
嵐山家は両親が弁護士。
法律関係の本とギャグ漫画が肩を並べているのは何だか可笑しみがある。
勿論、名作と呼ばれたシリアスな物もあれど。

「ホラーも幾つか読んだよ、公君が貸してきたから。」
「まぁ、出所はそこしかねぇか……ユウ、漫画は怖いの大丈夫だったん?」
「別に。むしろうちの叔父さんに似てるキャラ居て笑えたし。」
「何なんソレ、気になる。」

嵐山の従兄、公晴とは高校入学前から面識があった。
何も隠さず“恋人”として紹介される為。
人を寄せ付けない嵐山にとってそこまで信用している相手は珍しい。
幼い頃から兄弟のようでもあり、友達でもあった。

きっと二人にしか分からない思い出話も沢山あるのだろう。
梅丸が他人と交友関係を築いてきた事と同じように。


「そんじゃ俺も何か貸そうか?ユウの好きそうなん何冊かあるし。」
「ん、それは嬉しいけど……急に何だよ。」
「いや、俺ら普通に友達みてぇな事すっ飛ばしてきたから。」
「あぁ……」

そこから先は少しだけ無言が続く。

出逢った頃こそ子供だったが、何をして遊んでいたか思い出せなかった。
否、まともに友達だった時間なんて最初から無かったかもしれない。
お互い執着ばかりが先走って。

こうして共に過ごすようになったのも激情を晒し合った後だ。
漫画の貸し借りや他の友達とする事なんて、何だか今更。


「……僕は友達じゃ嫌だけど。」
「そうだんべねぇ。」

小さく袖を引かれて、呟かれる。
嵐山にしては素直に。
からかって笑うなんて出来ず、梅丸も同意を口にした。

甘い汗を掻き出すアイスを咥えながら初夏の道をだらだら歩く。
袖を摘まむ手が離れたら、握り返そうと密かに決めて。



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2017.06.24